2022.11.09

関係人口創出とは"地域のファン"を増やすこと。北海道帯広市とファンベースカンパニーが取り組む地域の未来づくり

北海道 帯広市役所 

山本 哲矢さん・平野 哲也さん、石澤 真郷さん、早坂 俊哉さん、林 雪絵さん

  • ファンベース伴走

share & link copy

北海道の南東部に位置し、1市16町2村から構成される「十勝」エリア。畑作や酪農など農業がさかんなことで有名で、カロリーベースの試算によると、十勝の食料自給率はなんと約1,100パーセント。日本の食料基地とも言われ、おいしい食材に恵まれた地域です。

その十勝エリアの中心となっている帯広市では、2020年よりファンベースの取り組みを開始。ファンベースカンパニーでは当初からこの取り組みに伴走し、ファンミーティングやファンインタビューの開催や定量パネル調査、ファンの分析などを行い、ファンイベントの開催やファンクラブ(とかちテーブル)の立ち上げなど様々なファンベース施策を支援してきました。

なぜ帯広市はファンベースに力を入れるのか。また、ファンベースカンパニーとの取り組みを続けるなかで、どのような発見や学びがあったのか。活動の推進を担っている帯広市経済企画課の課長を務める山本哲矢さんに話をうかがいました。聞き手は、ファンベースカンパニーの大塚正樹です。

ファンベースに取り組むきっかけは、「ファンのことを深く知りたかったから」

FBC大塚山本さんたちとファンベースの取り組みをはじめて、もう3年目ですね。これまでの活動を振り返っていきたいのですが、そもそもファンベースに関心をもったきっかけは何だったのでしょうか?

山本さんそれは2010年より帯広市長に就任している米沢市長からの「十勝ファンのことを、ちゃんと理解していますか?」という一言からでした。十勝を好きでいてくださる方々のことを「十勝ファン」と私たちは呼んでいますが、実はそのファンのことを何も知らなかったのです。

現在、日本中の自治体で関係人口創出を課題としていますが、十勝も同様でした。観光やワーケーションで定期的に足を運んでいただいたり、地域の名産品を愛用いただいたりして、地域と関係を持っていただく。関係人口を増やすことは、その地域のファンを増やすことになります。

ところが、活動のゴールであるはずの十勝ファンの姿について、当時の私たちは全くわかっていませんでした。ファンは十勝の何が好きで、十勝に何を望んでいるのか。市長からの問いかけにハッとさせられ、ファンの方々のことを詳しく知りたいと思うようになりました。

帯広市、山本 哲矢さん

FBC大塚それでファンベースカンパニーに声をかけていただいたのですね。

山本さんはい。ファンの方々を深く知りたいと言っても、どうやってファンと出会えばいいのかも、どういう風にファンと向き合えばいいのかもわかりません。そこで、ファンベースカンパニーさんの知見をお借りしたいと思いました。

FBC大塚ファンベースカンパニーとしては、「まずはファンの声を傾聴しましょう」ということを提案させていただきました。そこで、最初のファンミーティングを開催することになりました。ファンミーティングの内容から、告知の方法、参加者募集のアンケート設計まで、何度もディスカッションを重ねながら一緒にプロジェクトに伴走させていただきました。

山本さんファンミーティングを開催するうえで驚いたのは、ファンミーティングへの参加応募が3,000通以上も届いたことです。また、応募アンケートの中には、十勝の好きなところやファンミーティングに期待することなど十勝への愛が溢れるお声がたくさんありました。

嬉しい気持ちの反面、行政として私たちは公平さを重んじるところがあり、そこから参加者をどう選ぶべきかの判断に迷いました。その際、ファンベースカンパニーの皆さんがアンケート結果を深く読み込んできてくれて、「こういう方々が、皆さんがお会いすべきファンじゃないですか?」と提案してくれました。このような進め方のひとつひとつがファンを深く知ることにもつながり、とても勉強になりました。

ファンの想いを”地域の未来づくり”に活かしたい

FBC大塚ファンミーティングは十勝と東京の二カ所で開催し、その中で十勝の魅力について語り合うグループトークを行いました。

十勝が好きで十勝に移住したり、転勤先として暮らしているうちに十勝を好きになってしまったような「十勝に住む十勝ファン」。十勝の物産が大好きだったり、観光で十勝に何度も訪れている「首都圏に住む十勝ファン」。両方のファンと実際に会ってみて、どのようなことを感じましたか?

山本さん実はファンミーティングの開催にあたって、ファン同士の会話に盛り上がりが生まれるか不安に思うところがありました。その理由としては、十勝の食が好きな人もいれば、自然が好きな人もいたりと、地域の魅力は多様な要素で構成されています。感じている魅力がバラバラだと、話がうまく盛り上がらないのではと心配していました。

ところが、それは全くの杞憂でした。ファン同士で考えを受け入れあったり、深め合ったりと十勝と東京の両開催とも大変盛り上がりました。イベント後には「他のファンと話すことで、十勝がもっと好きになりました」という声を多くいただきました。自分と違う考え方もおおらかに受け入れるというか、共感力の高い方々が十勝ファンには多かったと思います。

山本さん参加されたファンの皆さんから「十勝にもっと関わりたい」「十勝に恩返しをしたい」といったお声を多くいただいたことも嬉しい驚きでした。ファンの方々の十勝についての知識量はすごく、十勝の未来を真剣に考えてくださっていることがファンミーティングを通じて伝わってきました。

こうしてファンの方々の熱量に直に触れることができ、また十勝ファンの想いを十勝の未来づくりに活かしていきたいと考えるようになりました。ファンミーティングには米沢市長も参加していましたが、同じ想いだったと思います。

FBC大塚その後、ファンをより深く知るために、ファンミーティング参加者の数名を対象に、個別のファンインタビューも実施しました。それらで得られた分析結果から「ファンと十勝の未来づくり」の仮説を導き出しました。また、その仮説を検証するために調査パネルを使った定量調査も実施しました。

山本さんはい。こうした調査をファンベースカンパニーさんと一緒に行うことで、十勝ファンの姿が具体的に見えるようになり、部署内でも共通認識化をできるようになっていきました。さらには私たちが思っている以上に、ファンの方々は十勝に関わりたいと思ってくださっていることを知りました。

ここから、ファンの存在を地域に活かす具体的な取り組みを考えていくことになりました。どこから着手すべきかについては、ファンベースカンパニーさんとのディスカッションを通じて地域の産業振興の分野から始めることに決めました。地元企業の事業開発や商品開発にファンのアイデアを活かそうとする試みです。

十勝という土地は北海道の他の地域とは違って政府ではなくて民間が開拓してきた歴史があります。そのフロンティア精神は今も受け継がれていて十勝は民間企業が元気な土地柄です。
2022年7月に開催された3回目のファンミーティングでは、十勝の地元企業にも参加いただき、商品開発や販路拡大のアイデアをファンと一緒に考える「共創ワークショップ」を開催し、十勝ファンとより事業を盛り上げていくためのアイデアを一緒に考えていきました。

今回のファンミーティングに参加いただいた十勝産小麦を使ったパンづくりをしている満寿屋商店さんは、「2030年に十勝がパン王国になる」という壮大なビジョンを掲げられていて、2025年に満寿屋商店さんが運営する日本最大の敷地面積を誇るベーカリーの隣に、地産地消をコンセプトにしたパンのテーマパークを建てる計画が動いています。十勝ファンのみなさんからアイデアを募りたいということを満寿屋商店の杉山雅則社長から聞き、帯広市が主催するファンミーティングの場で、十勝ファンの方々からアイデアを募ってみてはと提案させていただきました。「共創ワークショップ」ではファンの方々も満寿屋商店さんのことを事前に調べてきてくださったりして、とてもいいアイデアが生まれたと思います。
十勝を応援したいと思ってくださるファンの方々と、十勝の未来を創っていくために挑戦する地元企業。この両者を結びつけることで創出される価値は計り知れないのではないかと大きな可能性を感じました。

全国の十勝ファンとつながるファンクラブ『とかちテーブル』を開設

FBC大塚2022年7月よりファンクラブ『とかちテーブル』も開設され、ファンクラブサイトもはじまりました。ファン同士で十勝の食や自然について語り合うトークルームや、地元企業や団体が立ち上げた共創プロジェクトも立ち上がり、ファン同士やファンと地元企業とのつながりを継続的に発展させていくための取り組みになりました(現在はファンミーティングの参加者のみ会員登録可能)。

こちらの立ち上げや運営についてもファンベースカンパニーでサポートさせていただきました。自治体の中でも珍しいファンと地元企業が共創できるファンクラブになりますが、帯広市として一番重要と考えていることは何でしょうか?

ファンクラブ『とかちテーブル』公式WEBサイト

山本さん十勝の未来をファンと創っていくファンクラブとして立ち上げましたが、その中でも一番重きを置いているのは、地元企業との共創プロジェクトにおいてちゃんと成果を出すことになります。ファンとのつながりを活かして、地域に貢献することが私たち行政に求められている役割だと思いますので。

現在、地元企業とのプロジェクトが『とかちテーブル』の中で動きだしています。プロジェクトごとに参加者がいて、その企業の担当者も交えて、オンラインで活発なアイデアの交換が行われていきます。そこから生まれた価値は十勝にとって非常に重要なものですし、運営主体として積極的に協力していきたいです。

FBC大塚『とかちテーブル』の中で、将来的に「こんな企画をやってみたい」と構想しているものはありますか?

山本さんアイデアのひとつとして、全国の十勝ファン向けの特別な十勝ツアーを企画できたらと考えています。ツアーを一緒に企画するところから始めて、地元民しか知らないディープなスポット巡りや地元で頑張っている企業を訪問するなど、一緒に十勝の魅力を体験いただけるようなツアーです。オンラインの交流とリアルな交流を重ねることでより絆の強いファンクラブへと成長させたいです。

ファンベースに取り組む中で、不安は解消されていった

FBC大塚ここからは、プロジェクトを実際に推進されている経済企画課 工業振興係の4人の方みなさんにも入っていただきます。
平野さん、石澤さん、早坂さん、林さん、よろしくお願いいたします。

平野さん石澤さん早坂さん林さんよろしくお願いします!

FBC大塚帯広市のように自治体でファンベースの取り組みを実施していくケースはまだ珍しいと思いますが、どういう体制で取り組まれているのでしょうか?

平野さん基本的には経済企画課に所属する工業振興係のメンバーが中心になって取り組みを推進しています。また、ファンミーティングなど多くの人手が必要な際には、市役所の様々な部署に協力してもらっています。

体制としましては、ファンミーティングなどのオフライン企画の担当として早坂、『とかちテーブル』を中心としたオンライン企画の担当者として林、それぞれの企画をサポートする立場として石澤がいて、全体を統括する工業振興係の係長として私(平野)がいます。そこに経済企画課の課長の山本を含めた5名が、現在のファンベースの担当チームです。

FBC大塚実際にファンベースの取り組みをするうえで、困ったり悩んだりすることはありましたか?

石澤さん最初、ファンベースの話をきいた時に、とても面白く広がりのある話に感じました。一方行政として取り組むべき課題が沢山あるなかで優先順位をどうつけていくかだとか、効果を数値で表すことができるのかだとか、ファンの方々の存在を具体的にどう地域に結び付けていくかだとかがは、少し不安なところはありました(笑)。

ただ、実際にファンと接するなかで、そうした考えは変わりました。自分たちには見えていない視点をファンからたくさん気づかせてもらったり、十勝のことを深く想ってくださっている人たちが大勢いる事実に純粋に励まされたりもしました。そうした気づきから、ファンベースの取り組みに大きな可能性を感じるようになってきました。

山本さんおそらく、最初はみんなそうだと思うのですよね。私自身、最初の頃はファンの声を聴くことは大切だと思いながらも、その価値をきちんと理解できていませんでした。ファンの声をどうやって地域に活かすのかも見えておらず、長期的にファンベースの取り組みを行うことに実は懐疑的だったのです。

でも、前述したように、ファンミーティングを開催してみたら、見える景色がガラッと変わりました。論より証拠と言いますか、実際にファンの方々と接してみないと、ファンの価値はわからないと思いますね。

ファンと一緒に地域を盛り上げ、地域全体が潤っていく仕組みをつくりたい

FBC大塚ファンの存在やその想いを実感されたことだと思いますが、今後はファンベースの取り組みを通じて、どんなことを実現させていきたいですか?

早坂さん地域経済の活性化に貢献できるようにしたいという想いは強いです。工業振興係として、いかに十勝を豊かにしていくかは常に考えているテーマです。
地元企業の方々のファンベースの取り組みへの期待も高いですし、ファンの方々も「十勝の未来に貢献したい」という想いが強い方が多くいらっしゃいます。ファンと地元企業とのつながりを発展させ、新しい価値を生み出していく。そこをやり遂げたいですね。

林さん私はファンクラブやオンラインの企画を担当していますが、情報発信も積極的にやっていきたいです。例えば、『とかちテーブル』には十勝ファンのコラムが読める機能がついていまして、十勝ファンの方々が地域の最新ニュースやそれぞれが感じる十勝の魅力などを発信してくださっています。

地域を盛り上げていくことを考えた時に、観光地や物産品を有名にするだけではなく、地域全体が潤っていく仕組みを築くことが大切だと思います。「有名ではないけど、こういう素晴らしいものがあるよ」といった隠れた魅力を、ファンの方々と一緒に見つけて伝えていくことは価値ある取り組みになるのではないかと感じています。

ファンの存在は、様々な面で明るい影響を与えてくれる

FBC大塚最後に、ファンベースの取り組みを続けるなかで、山本さんご自身のなかで変化が生まれたことがあれば、教えていただけますか?

山本さんそれでいうと、十勝への想いが格段に高まりましたね。もちろん以前から十勝への想いはありました。生まれ故郷ですし、十勝を盛り上げたいと思って、ここで働くことを選んだわけですから。

一方、地域の課題に目を向けると、人口減少や高齢化の問題など様々な難題があるわけですよね。そうした問題を漠然と考えていると、地域の未来に対して暗い気持ちを抱いてしまう瞬間も正直あったりもします。

ところが、ファンの方々と接するたびに、自分が思っていた以上に十勝は魅力的で可能性の溢れる地域であることに気づかされていきました。心の底から好きだとか思ってくれる人がこんなにいるなんて、十勝ってスゴいじゃないかと思うことができたのです。

地域や社会には課題が沢山あります。しかし地域を応援してくださる人たちがこれだけいるのであれば、未来をもっと明るく考えていこうと思えるようになれます。そして、そういう前向きな気持ちは行政としての仕事の様々な面に明るい影響を与えているように感じます。

ファンと地域の住民や地元企業をつなぎ、十勝の未来をともに創っていくために、これからもファンベースに取り組んでいきたいです。
ファンベースカンパニーさん、引き続きよろしくお願いします。

share & link copy

インタビューをした人

Profile大塚 正樹ファンベースプランナー

セールスプロモーション分野のディレクターとして、売場開発や商品ブランディング、地域創生事業などに20年以上従事。ファンベースカンパニーではプランニングを担当。趣味は旅をしながら地域のおむすびをレポートすること。サッカー観戦も好きで、その好きが高じてJリーグの公式ファンサイトで連載をしていたことも。

お問い合わせ

contact us

お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

RETURN TO TOP :)